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父親になった。

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父親になった。

2015年4月22日14時16分。
彼は此岸にやってきた。
「産まれてきたあかちゃんに何と声を掛けてあげたいですか?」というバースプラン用紙の質問に、
「いらっしゃいませ」と書いた。ふざけていたのではない。

ここに記録するのが遅くなったのは、
単純にめちゃくちゃ忙しかったからである。

まめが亡くなって、我が家からは笑顔が極端に減った。
毎日毎日、泣いて暮らした。
前述の通り、
まめの死に対して、
やりきれない想いが残っていたわけではない。
そうではなくて、ただ単に悲しくて、寂しかったのだ。
しかし、
彼の死と落ち着いて向き合えるようになるのには、
途方も無い時間が必要だということだけはよく分かっていた。

えんぞうは散々逡巡した。

産休に入る嫁とおなかの息子を、
まめの骨壷と留守番させることはできなかった。
笑顔にあふれた家に息子を招きたかったし、
まめは間違いなくそれを望んだだろう。

そのうち紹介するけれど、
3月22日、
息子が産まれる丁度一ヶ月前に、
我が家は二匹目の黒パグを迎えた。
生後3ヶ月の男の子である。

生後間もない犬特有の病気。しつけ。
なによりも我々との信頼関係をイチから構築しなければならない。
時間は一ヶ月しかない。
様々なリスクを抱えることを承知で、彼を迎えた。

そして詳細は後日に譲るが・・・その判断は完全に正しかった。
新しい楽しい毎日が始まり、いよいよ妻は正期産期を迎えた。

そして予定日の10日前の水曜日。
朝えんぞうがいつもの様に豆腐を食っていると、
「なんだかお腹が痛い気がする」
と妻が言った。

いくらなんでも早過ぎるから、
気になるようなら一応病院に電話して指示を仰ぐように伝えた。
月末は本業が比較的落ち着いているので、
何かあればすぐに早退して、病院に向かうこともできるからと、えんぞうは家を出た。

行きの通勤電車の中で息子誕生迄に用意をしておくつもりだったiPhone5sで撮りためていた全写真の編集が完了した。
直観的に、これはもしかしてもしかすると今日産まれるな、と思った。

10時過ぎに、妻から「やっぱりこれからタクシーで病院に行く」という連絡が入った。
状況によってはそのまま入院の可能性も否めない。
えんぞうは同僚や進行中案件に関わる要員に、
「いつ産まれてもおかしくない時期に入ったので、予告なく早退・有給を頂く可能性がある」と同報を入れた。
送付確認後、妻から「入院が決まったので、病院に来てほしい」というメールが届いた。
我ながら完璧なディレクションである。11時過ぎ。

えんぞうはすぐに会社を出て帰宅し、パグに食事を与えてから、家を出た。
とてもよい天気で、少し暑いくらい。
絶好の誕生日になりそうだ。

近くのセブン-イレブンで、長丁場になるだろう、とパン類を買い込んで車に戻ると、
「いそいだほうがよい」
というひらがなだけの切迫した妻からのメール。
12時半。

え?だいぶ早くね?

とはいえそういうことであれば急がねばならない。
信号待ちの要所要所で妻に現在位置と激励のメールを送る。

13時過ぎに病院に到着。
面会用紙を書くのが煩わしい。
エレベーターに飛び乗り、産婦人科のナースステーションに駆け込む。
「おまちしておりました」
とLDRに続く通路を助産師さんの後ろに続く。

と、絶叫が聞こえる。
まさかとは思ったが・・・部屋に入ると泣き出す妻。絶叫の主も妻。
兎に角痛いのだという。
最早込み入った会話が成り立たない程で、定期的に訪れる陣痛に絶叫を繰り返すだけだった。
できることは腰をさすることと、汗を拭くことと、水をあげることだけだった。

部屋にはえんぞうと妻だけ。
隣でも出産があるらしく、ときおり助産師さんが巡回してくれる以外は、
絶え間なく聞こえる息子の心音モニターと妻の絶叫。

14時少し前に破水。
この頃になるとえんぞうも最早痛がっている妻は痛がっているだけに「大丈夫」であり、
どちらかというと心音のモニターが陣痛の度に遠のく方が気に掛かりだしていた。
カーテンの隙間から街並みが見えた。部屋は薄暗い。

破水以降はスタッフの数がどんどんと増えだし、
気がつけば6-7人の「女性」スタッフに囲まれていた。
男はえんぞうとお腹の中から今出てこようとしている息子だけ。

恐らくその場で一番偉いであろうベテラン風の助産師さんが、
「10分台には産まれますよ」
と誰にともなしに呟いた。

場の緊張感がどんどんと張り詰めていき、
「頭が見えましたよ~」「あと少しですよ~」という激励の声が飛び交う。
えんぞうはただ妻の手を握り、妻の頭側から布に隠された足側を見つめていた。
「出てきました」「見えますか?下を見て下さい!」
という声と同時に、息子の顔が見えた。
程なくして全身が出たのだろう、スタッフが彼を抱えてうつむかせた(布で隠れているので見えてはいない。恐らくそう、という推測だ。)。
場の空気が最大に張り詰めたのはこの時だっただろう。

直後に元気な鳴き声が響き渡った。
と、
同時に張り詰めていた空気が一気に緩み、
スタッフの動きが「後片付け」に切り替わった。
そして、
やっぱりえんぞうは泣いてしまった。

いらっしゃいませ。

息子と妻の命を預かって下さったみなさん、ほんとうにありがとう。
かみさまありがとう。

14時16分。

えんぞうはほんとうの父親になった。

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